NO. 323 「早く歩きすぎた」2023年9月 「早く歩きすぎた」とインディオは話した。「だから、われわれの魂が追いつくまで、待たなければならなかった」 “エンデのメモ箱”(岩波現代文庫)の「考えさせられる答え」からです。 遺跡発掘のために中米の内陸へ探検行した学術チームが、荷物の運搬のために幾人かのインディオを雇ったのですが、はじめの4日間は思ったより早く先へ進めたのですが、5日目に突然、インディオは進むことを拒否し、黙って円になり、地面に座り、どうしても荷物を担ごうとしなかったのです。賃金を上げても、銃で脅しても無言で円陣を組み、座りつづけたそうです。しかし、二日過ぎて突然、インディオたちはいっせいに立ち上がり、荷物をまた担ぐと、命令もなしに、予定された道をまた歩き出したそうです。ずいぶん日にちがたってから、白人とインディオとのあいだに信頼関係ができたとき、インディオの一人が、「早く歩きすぎた。だからわれわれの魂が追いつくまで、待たなければならなかった。」と答えたそうです。 もう一つの答えです。これもインディオからの答えです。山の頂に村落のある女性たちが、山のすそ野にある泉へ水を求めて帰りには水を満たした瓶を持ち、毎日約2時間、頂から往復しています。女性に、村をすそ野の泉のそばに建てたほうがりこうではないかとたずねると、「りこうだとは思いますが、楽をする誘惑に負けるのではないかとこわいのです。」 さらに、エンデはこの章で聖書の一部を紹介し、次の様に書いています。 “聖書に奇妙に同じような文章を見つけた。「世界を手に入れても、魂をきずつければ、何の得だろう」(「マタイ福音書」16章26節)。ああ、魂がなんだというのだ!魂など、とうの昔に道すがらどこかで忘れてきてしまった。未来の世界は完璧に楽で、完璧に本質を喪失した世界になるだろう。そう思いませんか” としています。 人類が誕生して20万年です。インタ―ネット・スマホ誕生から約20年です。人類の歴史の1万分の1の期間に大変なことが起こっているのです。 私たちの魂は、現在の変化についていけているのでしょうか。特に、子ども達は、生まれてから、人類の歴史20万年を経験しながら成長するのですが、最後の20年の歴史は、人類の歴史ではこれまでにない猛烈な変化を遂げています。 特に、メディアは、子どもにも大人にも、「楽をする誘惑」「完璧に楽な世界」であり、その進歩に魂がついていけているでしょうか。 「早く歩きすぎています」「魂が追いつくまで待たなければならない」、子ども達を育てるとき、子どもの魂が追いついているか、気をつけたいと思います。 |