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NO. 255

インフルエンザはどこから来たか

平成29年11月

 今年も、インフルエンザの季節になりました。全国的にワクチンの不足がニュースとなっていますが、本院でもインフルエンザワクチンの不足でご迷惑をおかけしています。

 「人類と感染症の歴史」(加藤茂孝:丸善出版)からインフルエンザの歴史を紹介いたします。

 【名前の由来−インフルエンザは星から来たのか?】

 Influenzaの語源はin(中へ)とflow(吹き込む、流れ込む)から来ている。では、どこから流れ込んで来るのか? それは地球外からである。病原体としてインフルエンザウイルスは1933年にはじめて発見されたが、それまでは目に見えない得体の知れないものであり、彗星などの地球外から来た邪気(悪い空気)であったと思われたからこの名前がついた。

 【歴史上のインフルエンザ】

 (1)アテネの疫病

 インフルエンザが、世界的な大流行を起こすには、人工の密集と、迅速な交通手段の2つが条件であるとされている。紀元前430〜427年のアテネの疫病としてツキジデスが記載した病気がある。その原因は従来ペスト、天然痘、猩紅熱などいろいろと言われてきたが、1985年にラングミュウアーがインフルエンザではないかという説を出した。彼の説が妥当であれば、これが記録に残る最古のインフルエンザである。

 (2)日本での記録

 公式の歴史書である三代実録(901年完成)の862年の記載に「咳逆、死者甚衆」とあり、この「咳逆」は「しはぶき」と読むので、インフルエンザであると考えられている。これが日本における公式記録に記載された最初のインフレルエザの流行である。(“源氏物語のヒロイン夕顔は、ことによると、インフルエンザで亡くなった可能性が高い。”との記述もあります。)

 【最大のパンデミック(世界的流行)】

 インフルエンザのパンデミックの話題になると、必ず取り上げられるスペインインフルエンザ(1918〜1920年)について触れておきたい。最大の推計では世界で5000万人が死亡したと言われている。第一次世界大戦(1914〜1918年)の死亡者が推計で大目に見ても900万人とされているので、その6倍近い被害の大きさである。すなわち、世界大戦よりも恐ろしいウイルスということである。当時の世界人口16億人の内、少なくとも5億人が感染したと考えられている。

 【2009年という年−民主党政権とインフルエンザ・パンデミック】

 2009年は「新型インフルエンザ」の世界的な発生の年であった。そして、終息してみれば、日本は世界でもまれに見る感染死亡者の少ない国とされ、世界からは「日本の奇跡」とさえ言われるほどであった。

 【なぜ、2009年の新型で日本の感染死亡者は少なかったのか?】

(1)医療インフラの整備、すなわち、病院・クリニックが整備されていること、そして保険制度が充実されていること。発生震源地のメキシコでは、病院までの地理的・経済的アクセスが悪かった。米国では保険制度が不完全で、保険のない人は、医療費が高いので重症化するまでなかなか病院へ行かない。従って、メキシコにしても、米国にしても病院へいったときには、もはや手遅れという事態がおきる。

(2)早期発見。熱が出たら病院へ行く習慣のある日本では、早期発見ができる。

(3)早期治療、すなわち抗ウイルス剤の投与。早期発見だから早期治療も可能になる。抗ウイルス剤は万能ではないが、早期投与、特に発症後48時間以内の投与で大きな効果があると言われている。

 人類はこれまで数多くの感染症と闘ってきました。人類が野生動物を家畜化したのが13,000年前頃であり、家畜などの動物から次々に感染症が人にもたされてきました。ヒトの感染症で分かっている限り、その約70%が動物由来であると考えられています。

 皆が同じような症状で病に侵されては亡くなっていく、当然、原因も分からない状態ですから、昔の人はひどくおびえ、疫病をもたらした人はのろわれて「吸血鬼」として葬られ、神や仏に疫病からの回復を祈ったのでしょう。

 天然痘の根絶は、一つの感染症に対しての、人類初めての勝利です。天然痘は10,000年前には人の病気であったようで、インド起原であると思われています。江戸時代記録によると、ある村の人口の3〜4%(100人のうち3〜4人)が一年のうちに天然痘で亡くなっています。今の津山なら、一年に3000〜4000人が亡くなることになります。それが、ジェンナーの種痘の発見から約200年後の1977年に天然痘根絶宣言が出されました。

 邪悪な天然痘は根絶されましたが、人との付き合いの上手なインフルエンザは、おそらく、これからも人類と共生して、生き続けると思います。そして、新しい病原体による感染症も出現すると思いますが、これまで通りに人類の判定勝ちが、続くのでしょうか。

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